被災された方には、受傷しているにもかかわらず適切な医薬品が手に入らず痛みを我慢している方や、避難所でストレスが多い生活を送ることで、腰痛や頭痛を発症している方も多いと思います。
そこで今回は、鎮痛剤が無い状況で、自分でできる鎮痛方法としての補完・代替療法をご紹介します。補完・代替療法とは、一般的な西洋医学の考え方とは一致しませんが、さまざまな文明の中で発展し、その理論と実践を融合して完成した医療のことです。例えば、鍼灸療法、ハーブ療法、マッサージ療法、気功、アーユルベーダ、運動 療法、催眠療法などが挙げられます。
誰でも、どこでも、すぐに実行できる4つの補完・代替鎮痛療法である、マッサージ療法、ツボ療法、ハーブ療法、運動療法についてお話します。
humerour骨折
ストレス軽減と痛みを緩和するマッサージ療法
マッサージは、ストレスを軽減させ、筋骨格筋系の痛み、腰痛や頭痛を楽にする方法として用いられています。マッサージによる痛みの軽減効果については、ごく限られた証拠しか示されていませんが、うつ、不安、疲労、混乱に有効であることが研究で明らかになっています(参考文献)。マッサージは抑うつ気分を改善し、痛みを訴える方が日常生活に復帰し、より良い生活を続けることに有効だと考えられています。一般的にマッサージは、脳脊髄液のような体液の循環に重点を置く場合はより軽く行い、筋肉や靭帯を対象にする場合には強く行います。突然の被災で心と体にストレスを抱えられた方の体全身に行う場合は、リラックス効果の高い「優しく軽い」マッサージがお薦めでしょう。
しかし、深部静脈血栓症を予防 するためには、ふくらはぎや足限定で「強い」マッサージがお薦めです。深部静脈血栓症は、足の血流が低下することにより、膝から下の下肢静脈内にできた血の塊がその静脈を伝わって肺動脈に到達し、肺血管を閉塞して突然死にいたる病気です。
避難所では被災でできた下肢の外傷、不十分なトイレ環境や飲料水不足に伴う脱水、慣れない狭い就眠環境、多大なストレスや疲労などにより、深部静脈血栓症のリスクが高まります。よって、ふくらはぎや足のマッサージで下肢の血流を高めることは、命を守ることに直結するのです。ぜひ積極的に下肢のストレッチやマッサージ、その場ステップや青竹踏み運動を取り入れましょう。
不安を緩和し痛みを和らげるツボ療法
不安な日々を送らねばならない状況を少しでも緩和し、痛みを和らげるツボをお教えいたします。Kuhnらは下記の2つのツボを刺激することで、頭痛、歯痛や不安が軽減することを報告しました。ツボ押しの効果を得るポイントは、強く押しすぎないこと。押して気持ちいい刺激を感じることが、効果を増大させます。■ 合谷(ごうこく)
手の人差し指と親指の骨が合流する部位から、やや人差し指よりのポイントです。反対の手の親指と人差し指でその部位を挟むと、ジーンとします。この鈍い刺激が脳からモルヒネ様物質を分泌し、痛みを感じにくくすると考えられています。特に頭痛、歯痛、副鼻腔炎、腕や手の痛みに有効です。
■ 大陵(だいりょう)
手首の内側、横線が走る中央で、手首の腱と腱の真ん中のツボです� ��胃痛や嘔吐に効くほか、不安や吐き気、乗物酔いも軽減します。子供の全身麻酔中に、この部位を刺激すると、術後の吐き気や嘔吐軽減に効果があることが分かっています。不安から吐き気を催すお子さんもいらっしゃるはず。吐き気止めや抗不安薬が手に入りにくい場合、子供の手首の内側を、優しくトントンと刺激してみてください。
鎮痛有効成分が確認されているハーブ療法
ハーブは、その純度や効力が一定しないという側面がありますが、さまざまな鎮痛有効成分が確認されています。ハーブ製品による副作用の発症頻度は低く、災害で鎮痛剤が手元に届かない場合には、痛み止めとしての効果が期待されます。■ 痛み止め効果が期待されているハーブ
デビルズクロー、イラクサ、柳の樹皮、月見草の種子、唐辛子、白ガラシの種子、フキ、ペパーミントオイル、スイートクローバーのハーブ、クロフサスグリの葉など
めまいと頭痛
お茶やコーヒーに含まれるカフェインも、鎮痛薬の成分です。Wallenstein の研究では、65mg 以上から有効性を示しました。しかし、カフェインの取りすぎには要注意。米国食品医薬品局は、カフェインは200mg を超えない範囲で、3~4時間以上の間隔を取ることを推奨しています。
心身のリラックスを計る運動療法
健康を回復させるために運動で体の血流を改善し、心身のリラックス効果を得る方法です。カイロプラクティスやヨガが有名です。ずれた脊柱をまっすぐにすることで、体内にある「自然治癒力」を働かせて体の健康を回復させると考えられています。今回は日本頭痛学会が推奨する、埼玉国際頭痛センター長 坂井文彦先生の「一日2分の頭痛体操」をご紹介します。この頭痛体操は、首の後の筋肉をほぐし、脳の痛み調節系によい刺激を送ります。この運動をご紹介する理由は、体力の落ちた方でも実行可能、いつでもどこでも手軽に行えることはもちろん、被災地生活のストレスからおこる頭痛、片頭痛と緊張型頭痛の両方に有効だからです。
避難所では食料・水分不足、窮屈な雑魚寝状態で隣り合った被災者を気にしながら� �る睡眠環境,トイレに行く人に踏まれないように縮こまって寝る無理な姿勢,眠れない日々、疲労の蓄積と将来の生活不安も重なってストレスが蓄積。ストレス性頭痛が起こることは容易に想像がつきます。この運動は片頭痛の発症頻度を減らし、緊張型頭痛を軽減します。被災地では、片頭痛治療薬や鎮痛剤は手に入りにくいもの。ぜひ脳を活性化し、脳の痛み調節系に良い刺激を送る、このストレッチ体操を実践しましょう。
■ 腕を振る体操
正面を向き、足は肩幅に開き、頭を動かさず、軽く曲げた両腕を大きく回します。頚椎を軸として肩を回転させ、頭と首を支えている筋肉をリズミカルにストレッチします。首を芯にした回転するコマのイメージです。頭をなるべく動かさないようにしながら、2分間行いましょう。
この運動の3つのポイント
- 体の軸を意識する
- 腕の力を抜く
- 頭を動かさず、一点を見つめて行う
■ 肩を回す体操
肘を軽く曲げ、肩を前後に回します。前に回すときにはリュックサックを背負うような感覚で、後ろに回す時には洋服を脱ぐような感覚で肩を回します。背中の大きな筋肉、僧帽筋(そうぼうきん)にたくさんの刺激が与えられるように、大きく肩を回すイメージで行いましょう。6回を目安に行います。
この運動の3つのポイント
- 足を肩幅に開き、力を入れず軽く肘を曲げる
- 頭を動かさない
- リズミカルに肩を回し動かす
これらの運動は、片頭痛発作が起こっている時、激しい頭痛がある時、発熱を伴う頭痛の場合には行ってはいけません。また被災地では、ストレスや不十分な薬の配給で高血圧症が悪化、危険な頭痛が起こりやすい状況です。激しい頭痛に普段起こらない吐き気や、ろれつが回らない、物が二重に見える、めまいや痙攣など、いつもと違う頭痛の症状を感じたら、運動は行わず、速やかに医師の診断を受けましょう。
参考文献
Katz J,Wowk A,Culp D,Wakeling H 1999 A randomized controlled study of the pain- and tension-reducing effects of 15 min workplace massage treatments versus seated rest for nurses in a large teaching hospital. Pain Research and Management 4:81-88
Field T M 1998 Massage therapy effects. American Psychologist 53: 1270-1281
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