熊本県薬剤師会「よくあるご質問（FAQ）」薬剤師向け

【健康食品と医薬品の違い】

  最近流行の健康食品にもいろいろあるが、その中でもイチョウ葉エキスに対する一般消費者の認知度はかなり高い。「海外では医療用医薬品として使用されている」という宣伝文句と日本人に古来からなじみのあるイチョウ由来の成分ということが、消費者に高い有効性と安全性を期待させるのであろう。しかし、注意して欲しいのは、日本の法律には「健康食品」という定義は存在せず、あくまでも「食品」として取り扱われているということである。つまり、医薬品のようにGMP、GCPにのっとった製品管理がされているというわけではなく、製品ごとに大きな較差があることが容易に想像できる。今回紹介する情報はあくまでも海外で規格化されているイチョウ葉エキスの標準品EGb761についての情報 であり、国内に広く流通している健康食品全てが製剤的にも品質的にもこれらEGb 761と同一だという保証はない。「イチョウ葉の成分」イコール「EGb 761」ではない。今の時点で、日本におけるイチョウ葉エキスの信頼できる臨床報告はまだ少なく、しかも小規模試験データのみであり、現在国内では医薬品としてのイチョウ葉エキスの開発は行われていない。

【イチョウ葉エキスの歴史】

腸の宿便と脚の痛み

イチョウ葉エキス（extract of Ginkgo biloba：EGb）の歴史は古く、1950年代にドイツでエキス抽出されたことに始まり、医薬品としては1968年からドイツ、フランスを始めヨーロッパを中心に脳循環代謝改善薬として使用されている。ちなみに、アメリカでは医薬品としては認められておらず、日本と同様サプルメントとして取り扱われている。

【イチョウ葉の成分】

 収穫されたイチョウ葉は乾燥され球状に圧縮される。乾燥葉から作られた乾燥エキスはアセトン／水で抽出された後、濃縮物の追加や成分分離をせずに精製される。成分は、Flavonoids(0.5-1.8%)、Biflavonoides(0.4%-1.9%)、Trilactonic diterpenes(0.06-0.2%)、Trilactonic sesquiterpene bilabolids(0.04-0.2%)とされており、Trilactonic diterpenes にはginkgolide A,B,Cが含まれている。ginkgolide B は PAF（platelet-activating factor）とその受容体の結合を阻害して、強力なPAF拮抗作用を発揮する。アラキドン酸非依存性の血小板の凝集を抑制する作用や、Tリンパ球の増加とサイトカインの産生とともにPAFによって誘発された気管支収縮と気道の異常過敏を抑制する作用があると言われている。また、フラボノイドはフリースカベンジャー作用と過酸化脂質の予防作用によって、虚血保護作用と抗酸化作用を発揮する。

【臨床試験（Clinical Trial）】

断食からの体重減少

  イチョウ葉エキス（EGb 761）の人での有用性の検討は、いくつかのテーマについて過去に何度か臨床試験が行われている。 1997年にJAMAに報告された、アルツハイマー病と多発梗塞性痴呆における有効性と安全性を評価するための臨床試験（プラセボ対照二重盲検比較試験）では、52週間にわたりEGb 761を 120mg/day投与された309人の患者における効果を検討した結果、EGb 761の安全性と、6ヶ月から1年間にわたり痴呆患者の認知機能と社会的活動を一定の水準に保ち、あるいは向上させたことが確認されている。 1998年に報告された、末梢性動脈閉塞疾患と間欠性跛行の111人の患者におけるEGb 761のプラセボ対照二重盲検比較試験では、無痛歩行距離は投与開始時には両群とも差はなかったが、8週、16週、24週と経つにつれ、EGb 761投与群の方がプラセボ群より最長歩行距離と無痛歩行距離において有意に優っていて、治療期間中の血流ドップラー指数（doppler indices）は変動しなかったとされている。 平衡障害については40以上のコントロール試験が行われており、血管性前庭障害による回転性めまい（vertigo）やフラツキ（dizziness）などに有効性が認められている。

【効能・効果】

 ドイツの権威ある薬草（Herb）を評価する機関である、通称「Commission E」に承認されたイチョウ葉エキス標準品（EGb 761）の効能・効果は以下の通り。

うつ病のためのエキサイティングな新しい治療法

• 基質性脳機能障害の症状の軽減
• 間欠性跛行
• 回転性めまい（血管性）
• 耳鳴（血管性）

  中国でイチョウは伝統的に喘息、耳鳴、高血圧、狭心症に使われている。ホメオパシー（同種療法）では、扁桃炎や頭痛も効能・効果として含まれている。

【禁忌】

  イチョウ葉エキス成分に対し過敏症の既往歴がある人は禁忌とされている。また、頭蓋内出血の危険因子を持つ患者は、薬草（Herb）に関連したクモ膜下出血症例が最近報告されているので、使用を控えた方がいいとされている。 l 副作用 副作用については、適切な指示に基づく使用での有害事象の報告はないが、胃腸系の軽い症状が副作用として出現することが考えられる。また、非経口的な投与による血圧異常、アレルギー症状、静脈炎が時々報告されている。非常にまれなケースではあるが過敏性皮膚症状も認められている。急性毒性症例で考えられる過敏症状は痙攣（spasm、cramp）、弛緩症（atonia）、脱力（adynamia）とされている。また、生殖系への影響では、イチョウは卵母細胞に有害作用があるとされている。

【相互作用】

  EGb 761は抗血栓剤（抗凝固薬、抗血小板薬、アスピリン）と相互作用があるとされている。強力なPAF拮抗作用により、出血傾向が増強する可能性が考えられる。薬草が関連していたとされているクモ膜下出血、頭蓋内出血の症例報告から、血栓療法中患者のEGb 761 の使用は、頭蓋内出血のリスクを伴うとされている。

【用法・用量】

 EGb 761の製品は、カプセル（30mg〜500mg）、エキス剤（50：1）、液剤（40mg/5ml）、錠剤（30mg〜260mg）と様々である。EGb 761の標準規格は、flavone 24%、terpene lactones 6%となっている。用法・用量は40mg〜80mg／回を1日3回となっている。痴呆、末梢性動脈閉塞疾患、耳鳴や回転性めまいを伴う平衡障害の治療においては1日120mgを2〜3回に分けての内服で有効性が認められている。中国での伝統的な用法・用量は、1日に3〜6gのイチョウの葉を煎じて使用するとされている。

GMP
「医薬品の製造管理および品質管理に関する基準（good manufacturing practice）」の略．医薬品の製造段階においてより良質の医薬品の品質確保を図ることを目的に医薬品製造所における製造設備と製造管理の両面について規定したものである．

GCP
「医薬品の臨床試験の実施に関する基準good clinical practice（for trial of drug）」の略．同義語：臨床試験実施基準．

「参考資料」
1) Ginkgo,PDR for Herbal Medicines second edition
2) 植松大輔：脳卒中後遺症等に対するイチョウ葉エキスの効果,日本医事新報,3961,104,2000
3) 日本食品機能研究会, http://www.jafra.gr.jp/index.htm
協力：熊本大学薬学部薬品資源学講座 矢原正治先生

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